ビフォア・バースデイ -7-

 ヘルムートがタマゴを産んでから一週間。

「ヘルちゃん、ヘルちゃーん。ついでに千代晴ちん!」
 仕事を終えて帰宅したばかりの俺が夕食を作っていると、突然ナハトが部屋に駆け込んできた。もう俺が部屋にいる時はドアの鍵をかけないようにしている。幾ら施錠してもナハトが壊すためだ。

「どうした、相変わらず賑やかだな」
「ナハト、何だか久し振りです。この一週間、全然姿見えませんでした」
「にゃはは。それはね、調達屋のお友達から新しいビジョンをもらうために駆け回ってたからなのさ!」
 そう言ってナハトが斜め掛けにしていたバッグの中から見覚えのあるクリスタルを取り出した。ビデオ通話ができる、例の透明な物体だ。

「シロナガス王にも報告したいでしょ。それから、あの人にも……ふふふ」
「あの人って誰ですか?」
「内緒、内緒。通信してからのお楽しみ!」

 手を洗ってリビングへ戻った俺は、テーブルの上にビジョンを設置するナハトに頭をかいて呟いた。

「マジで色々と世話してもらって、すまねえ。そのビジョンての入手するのに一週間もかかったってことは……そうとう高価な物なんだろ。俺にも払えるだけ払わせてくれ」
「ん? ああ、全然。ビジョン自体は安いモンだよ。日本円で五百円くらい」
「そ、そんな安いのかっ?」
「ただ、地球で手に入れるにはちょっとしたルートが必要ってこと。ボクが懇意にしてる調達屋の子は星にいた頃ボクに借りがあるから、タダで譲ってもらったしね」

 ナハトにも、そして顔も名前も知らない調達屋の人にも、感謝の気持ちで一杯だ。やっぱり俺はツイている。とりわけ、人に恵まれている。

「クーヘンの海底寺院に繋いであるから、王様とはガラス越しの対面になるからね。千代晴ちんは、このマイク付きイヤホンを付けて。王様のテレパシー受信は無理でも、他の人との会話が日本語でラグ無くできると思うから」

 言われるままイヤホンを付ければ、テーブルに置いたビジョンが光を放ち始めた。隣に座るヘルムートの膝には水色のタマゴ。親子三人、初の王との謁見?だ。

 あの日と同じように、ビジョンが俺達の前に光のスクリーンを作り出す。
「あ……」
 海底寺院という物が何なのかよく分からないが、スクリーンに映し出されたのは天井は低いが広い円形状の部屋だった。

床と天井には海の神話をモチーフにしたような壮大な絵画が描かれている。室内外を隔てている壁はガラス製で、海底に泳ぐ大小の魚達が優雅に「外」を泳いでいるのが見えた。

〈よう、ヘルムート王子〉
 そうしてその部屋の壁際に座っていた見知らぬ男が、こちらに向かって片手を上げた。失礼なほどの仏頂面だ。機嫌の悪そうな様子がビジョン越しでもビンビン伝わってくる。
「だ、誰だ……?」
「あ、あ……」
 気まずそうに縮こまるヘルムートの後ろで、ナハトが「にひひ」と笑った。
「カ、カイン王子……!」

 ──カイン王子?

「ま、ま、まさか……あの、こいつが、ヘルムートに結婚を申し込んでたっていう……」
「その通りだじょ。カイン王子がたまたまこの時期クーヘンでの会議に参加してるって聞いたから、グッドタイミングでビジョン通せるようにしたんだぽ!」
 サプライズ成功、とナハトは呑気に喜んでいる。