ビフォア・バースデイ -2-

 廃棄前のケーキではなく、ちゃんと金を出して買った四人分の「チョコマーブル・チーズスフレ」の箱を手に、俺はだいぶ涼しくなってきた八月後半の夜道をアパートへ向かい歩いていた。

 同じアパートに友人が集まっているというのは心強い。ナハトにはヘルムートを見ていてもらえるし、真面目な瑠偉がいるから二人とも無茶な真似はしないし。こうして殆ど毎日ケーキの土産を期待されはするが、賑やかな夕飯が待っていると思えばデザート担当になるのも悪くはない。

「ただ、瑠偉とナハトも二人になりたい時があるだろうし……いてくれるのが当たり前って思わねえようにしないとだな」
 敷地内に入ってポケットから部屋の鍵を取り出し、101号室のドアの前へと立つ。

 ディンプルキーの鍵穴に鍵を差し込み、右へと回す。
 レバー型のドアノブを掴み、下に引いてドアを開ける──。

「……あれ」
 玄関からでも分かるほど、部屋の中がやけに静かだ。いつもは俺が帰ればヘルムートが一番に飛んで来てくれるのに、それもない。
 特に何の日でもないからサプライズではないだろうし、コンビニでも行っているのだろうか。

 誰もいないリビング。台所には温まったカレーの鍋があり、冷蔵庫には四人一緒に食事をすること前提で新しいジュースやビールが入っている。

 踵を返して部屋を出た俺は、一応102号室の呼び鈴を押してみた。が、反応はない。

 ──待ってれば帰ってくるだろ。

 取り敢えず買ってきたケーキを冷蔵庫に入れ、汗で湿ったシャツを新しい物へと替える。静まり返った部屋に一人でいるのが慣れなくて、ナハトに連絡を取ろうかとスマホを開いたその時。

「あっれ、千代晴ちん帰って来てる。お帰り~」
「……ナハト!」
 玄関からビニール袋の擦れる音とナハトの能天気な声が聞こえてきて、俺はホッと胸を撫で下ろした。やはり出掛けていたのだ。

「お醤油が切れちゃったから。取り敢えず小さいのでも買っとこうと思って、コンビニ行ってきたんだ。アイスも買ってきたよ~」
「醤油ならお前の部屋にないのか?」
「ボク自分の部屋でご飯作らないからね。冷蔵庫の中も殆ど空っぽだし」
「瑠偉はどうした? 一緒じゃないのか」
「それがさ。瑠偉くんだいぶアクティブになっちゃったから、せっかくだし何年も顔見せてない実家の両親とこに行ってくるって。明後日帰ってくるみたいよ~」
「良いことじゃねえか。……ナハト、ヘルムートは?」
「え?」

 スニーカーを脱ぎながら、ナハトが框に立った俺を見上げる。