ビフォア・バースデイ

 そうして新たな友人を得た俺に、いつもの日常が戻ってきた。

「千代晴。特注のケーキが二つ、今日の夕方に引き取りに来る予定だ。俺がいなかったら対応頼むぞ」
「了解です衛さん」
「そういえばヘルムート君はどうした? 上手くやれてるか?」
「ええ、友人もできたし今日は家で留守番してますよ」
「彼にやる気があるなら、正式にウチで雇ってあげても良いんだが……」

 衛さんの優しさは俺が一番良く知っている。本心からそう言ってくれていると俺には分かっている。

「ただでさえ夏は暇なのに、もう一人雇ったら大変でしょ。俺の給料でも何とか食わせてやれてるんで、大丈夫ですよ」
「済まないな。今度農家やってる知り合いから新鮮な野菜を届けてもらう予定だ、お前にもお裾分けするぞ」
「うわ、ありがとうございます!」

 地球人も宇宙人も、俺の周りにいる人達はみんな良い人ばかりだ。

 グレていた時もそうだったと、ふと思う。
 衛さんを始め、両親も教師も。皆必死になって俺を更生させようと体当たりしてくれていた。

 喧嘩でしか男の強さを証明できないと言ってのけた俺を叩きのめしてくれた親父と、何度補導されても優しく俺を抱きしめてくれたお袋と。

 才能を生かし認められることを教えてくれた衛さんに、退屈な日々を一気に虹色に変えてくれたヘルムート。そしてもはや親友と呼んでも違和感のないナハトに瑠偉。

 そして、生まれてくる俺とヘルムートの赤ん坊──。

「千代晴、そっちのガトーショコラとチーズスフレの位置を取り換えてくれ」
「はい」
 相変わらず夏のケーキ屋は暇だが、父親になるからには怠がっていても仕方ない。これからは一家の大黒柱なのだから、これまで以上に張り切らないと。

「衛さん。パティシエになるのってやっぱり免許とか必要ですよね?」
「いや、実はこの仕事に資格は必要ないんだ。ただ就職するのに持ってると有利になる資格はある。製菓衛生師とか、菓子製造技能士の資格がそれだな。国家資格だし信頼度がグッと上がる」

 国家資格となれば当然勉強も必要だ。学校に通う時間も金も節約したいから、働きながらでも独学で学べれば良いが……。

「やる気になってるなら協力するぞ。俺という先輩がいるお前はツイてる!」
「衛さん……ありがとうございます」
 パティシエなんて過去の俺からしてみれば想像もできないほど立派な職業だ。自分で作った物を誰かが喜んで買ってくれたなら、きっとこの上なく最高に誇らしい気持ちになれるだろう。
 一つ問題があるとすれば、俺自身がそれほど甘い物が得意じゃないということか。

「味見役にヘルムートがいるならと思ったが……あいつは何でも美味いって言いそうだな」
 衛さんがキッチンへ入ってから独り言を呟いた俺は、生クリームとスポンジに囲まれたヘルムートを想像してつい笑ってしまった。
「すみません、誕生日用のケーキを見に来たんですけど……」
「はい、いらっしゃいませ!」