恋する宇宙の便利屋さん -5-

 そんな訳で午後一時半。二人の宇宙人と相中さんこと瑠偉を連れて昼間からやっている居酒屋「銀ノ海」に来た俺は、四人席で各々好きな物を注文してから彼らの顔を順番に見て行った。

 ヘルムートは注文用タブレットでデザートの項目をじっと見つめている。
 その正面に座ったナハトは手の中でおしぼりを弄びながら、しきりに動揺を隠そうとしている。
 その隣に座った瑠偉はカチコチに硬直し、赤い顔でじっと俯いている。

「えーと……。改めて自己紹介でもしようか」
 俺が話さない限り何も進まなそうだ。取り敢えずは初飲みということで、そう切り出した。

「俺は佐島千代晴。101号室だ。瑠偉、俺のことは千代晴って呼んでくれて構わない」
「あ、了解です……。えっと……僕、僕は……相中瑠偉です。202号室、です……」
「おれはヘルムート・シュトロイゼル・クーヘンです! 千代晴と同じ部屋です!」
「ボ、ボクはナハト・エーデルシュタイン。102号室です……」
「へぇ。ナハトの苗字って初めて聞いたな。カッコいいじゃん」
「にゃはは! そう? 普段は苗字まで名乗らないんだけどね!」

 笑う俺達の中で、瑠偉だけがぽかんとしている。
「千代晴さん以外は皆さん、外国の方……?」
 しまった。
「そ、そうなんだ。この二人はドイツ産まれなんだけど、日本に来て長いから日本語もペラペラだし生活習慣も日本人と同じでもう完全に日本人って感じで……」
「イエス、イエス。グーテンターグ!」
 焦るナハトの正面で、ヘルムートはよく分からなそうな顔をしている。お前はニコニコしていれば大丈夫、と事前に言っておいたから下手なことは口走らないと思うが……。

「僕、こうやって誰かと居酒屋で飲むなんて初めてなんです。今まで友人も恋人もいなかったから、こんな風に飲み会とか、やったことなくて……何か信じられない思いです」
 座っていても猫背な瑠偉は、動揺しつつもこの空気に興奮しているようだった。日がな一日アパートに引きこもって仕事と趣味に没頭している彼と飲み会なんて、俺も予想だにしていなかったから何だか新鮮だ。

「同じアパートでもそこまで顔合わせてなかったもんな。これからは何か困ったこととかあれば、どんどん頼ってくれよ」
「あ、ありがとうございます千代晴さん……」
「瑠偉くん、ボクのことも頼ってよ! ボクこう見えて便利屋……じゃなくって、色んな特技があるからさ。誰かに酷いことされたら、ボクが仕返ししてあげるから!」
「ど、どうも……」
 未だナハトへの警戒は解けていないらしいが、無理もない。ナハトはどうにも暴力的な意味で自分の力に自信があるため、アピールがそっち方面になってしまうのだ。
 瑠偉を安心させるためにも、できるだけ俺が助け舟を出してやらないと。

「ナハトは機械とかも強いよな。普通の家電なら壊れてもあっという間に修理できるし、……それから、えっと……賑やかな奴だから、部屋に置いても退屈しねえし」
「あとボク、舌技には自信あります! 地球の一般男性なら平均で三分!」
「……この通り頭ん中ユルいから、単純で扱いやすいっていう点もある。こういう発言も悪気はないんだ、許してやってくれ」
 瑠偉は「はあ」と縮こまり、頬を真っ赤にさせている。

「僕はオタクだけど自分で修理したりは苦手だから……そういう時、是非ナハトさんに声かけさせて頂きますね」
「っ……! う、うんっ!」
「千代晴。メロンソーダにバニラアイスを乗せると、クリームソーダになります!」
「ああ、……アイスも頼んでいいぞ」
 それぞれの想いを胸に、一杯目のドリンクが運ばれてきた。

「ヘルちゃん、はいメロンソーダ。千代晴ちんとるいるいは生ビールね。はいはい、乾杯しよ~」
 すっかり明るくなったナハトがてきぱきとドリンクを回して行く姿に感心しながら、俺はビールのジョッキを手に真正面の瑠偉と視線を合わせた。──なるほど、正面から見れば瑠偉の顔はナハトが惚れてもおかしくないほどには整っている。背筋を伸ばし髪型を整えれば立派な好青年だ。