恋する宇宙の便利屋さん -2-

 俺が知っている二階の住人といえば、202号室のオタク男子・相中瑠偉だ。とてもではないがナハトの好みではなさそうだから、彼以外の男となると──正直、あんまり顔も合わせたことがない人ばかりでよく分からない。

「ねえねえ! ほんとにお願い、一生のお願い! 赤ちゃん産まれたらボクの全財産あげるから、あのイケメンのこと教えて!」
「全財産って、お前……」
 ソファに座った俺の足元でナハトが土下座し、床に額を擦り付ける。
「ちょっ、……やめろって! そんなんしなくても知ってることがあれば教えるから、頭上げろっての」

 言われて上体を起こしたナハトが、今度は床に転がって見悶え始めた。
「はあぁああぁん、千代晴ちぃん。ボクこんなに胸がドキドキするの初めて! これが恋ってヤツなのかしら?」
「勃起しながら言われてもな……」
「恋する便利屋さんのターゲット、どんなお兄さんですか?」
 ヘルムートがソファから身を乗り出してナハトに問う。すると頬を赤く染めたナハトが、寝転がったまま「えっとね」と何かを思い出すように目を閉じた。

「男らしい黒髪でー、背が高くて、色白美肌でー、鼻が高くて目が綺麗でー、優しくて、カッコいいのに可愛くってキュンとするの!」
「そんな男いたっけかな……。で、どうやって知り合ったんだ? ゴミ捨ての時とかか?」
「ううん」
 ナハトが身を起こし、床にあぐらをかいて笑う。

「今朝ね、寝てたら天井から『ドンッ!』て何か大きい音がしたの。それで目が覚めちゃったからムカついて、ぶっ飛ばそうと思って上の階の部屋に行ったんだ。鬼のようにピンポン鳴らしまくってたら、子ウサギちゃんみたいにビクビクしたイケメンが出てきたってわけ!」
「……思いっきり相中さんじゃねえか……」
「アイナカさんていうの? ボク、彼と目が合った瞬間にサクランボちゃんみたいに赤くなっちゃったから、名前も聞けずに逃げちゃって……。千代晴ちんに相談するって思い付くまで、ずっと心臓バクバクさせてたんだ」
「……相中さんは今もバクバクしてるだろうな。お前とは違う意味で」

 ヘルムートが「あ」と声をあげ、両手を叩いた。
「るいるい、瑠偉くんですね! おれも前に一度、会いました! おれのこと可愛いって言ってくれました!」
「イヤ~~ン! ボクもるいるいに可愛いって言われたあぁいっ!」

 顔面ピアスにドMでありドSでもある宇宙人のイカレ便利屋を「可愛い」と思う男がいるだろうか。しかも相手があの相中さんとなれば、ナハトには悪いがこの恋は恐らく成就しないだろう。残念だが。

「千代晴。おれ、ナハトの恋を応援します!」
「えぇっ……やめといた方がいいと思うぞ、ヘル」
「ヘルちゃーん! さすがは地球に降り立った大天使! ボク何でもするからぜひぜひ、千代晴ちんをゲットしたテクニックを伝授してちょー!」

 ややこしいことになってきた。恋をするのは良い話だが、結末が分かっている恋愛ほど見ていて悲惨なものはない。
「相中さんはもっと真面目っぽいのが好きだと思うぞ。ついでに女子が好きだと思う」
「ボク、真面目だよ。女の子の格好もやれって言うならやれるし」
「見た目だけ女の格好しても……付いてるだろ、アレが」
「……うー。いくらマゾでも大事なコレだけはちょん切れないからなぁ……。どうしよう……」

 服の上から股間を揉むナハト。俺も昔は性別の問題で何度か傷付いたり挫折した経験があるからよく分かる。高校時代の大親友に「いくら千代晴でも男は無理」と言われてから、ノンケの男は二度と好きにならねえと決めたんだ。