静かな青の世界へと -10-

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「イヤーン! 千代晴ちん、ついにヘルちゃんと一発キメたんだね!」
「だから品のない言い方をすんなっ!」
 帰宅して土産物を広げていたら当然のようにナハトが部屋にやってきて、腹をさすっているヘルムートに歓声をあげた。その手には恐らくスーツの入ったブランド物のデカいショッピングバッグが握られている。

「ていうかお前、仕事どうしたんだよ。一晩中かかるかもって言ってなかったか」
「セックスはスーツ代とは別物よ、って言ったら給料日前でお金ないとか言うから、帰ってきちゃった」
「最悪な男だな」
「でしょ?」
「お前がだよ」

 くしゃくしゃと髪をかきながら、ナハトがヘルムートの傍らにしゃがみ込んだ。
「良かったねヘルちゃん。お腹大事にして、元気で可愛い赤ちゃん産むんだよ」
「で、でもまだちゃんとタマゴできたか分かりません……。千代晴の精子、届いてなかったら赤ちゃんできませんし……」
 ふうん、とナハトが服の上からヘルムートの腹を撫でる。
「おい、ちゃんと産まれといでよ~。早くタマゴになってパパを安心させてやれ」

 タマゴといっても大きさは鶏のタマゴよりも少し大きいくらいだそうだ。産まれる寸前になっても腹は目立たないが、注意深く触ればポコッとした感触があるらしい。

「後さぁ、無事に産まれたところで、その後はどうするか話し合った?」
「お、おれは千代晴と一緒に赤ちゃん育てたいです! 地球で、千代晴と三人でずっと暮らしたいです」
 俺はリビングのソファに座り、ボトルのサイダーを飲みながらヘルムートに視線を向けた。

 ヘルムートの言葉は一時の感情に任せて口から出たものではない。あの後、二人で時間をかけて話し合った結果だ。

 子供は二人で育てる。どんな形で産まれたとしても、大人になるまで地球でしっかりと育てる。もちろん必要ならシロナガス王と、それからヘルムートを生んだ母親に挨拶でも何でも行くし、孫の顔が見たいというなら都度いつだってクーヘンに出向いてやる。……具体的にどうやって行くのかは、ヘルムートの説明では俺には理解できなかったけれど。とにかく行けるなら行く、その覚悟はできている。

「えっ。じゃあヘルちゃんは王子の肩書きを失くしてもいいの?」
「地球では王子じゃありません、ただのおれです」
「王子という立場を捨てて、地球人の平凡な男と結婚かぁ~。ロロロロマーンティック!」
 巻き舌で叫びながら、ナハトが「面白くなってきたぁ!」と拳を握る。敢えて触れはしなかったが、その股間は驚くほどに盛り上がっていた。

「いいなぁ、ボクも子供欲しいなぁ。宇宙最強のドSに育てるのになぁ!」
「ナハトは赤ちゃんの時、何だったんですか?」
「ヘルちゃんはクラゲって言ってたよね。ボクはオオトカゲだよ」
「すっげえソレっぽいわ」
「千代晴ちん、どういう意味っ!」
 ムキーと怒りながら飛び跳ねる姿はトカゲというよりサルに見えるが、ナハトもどうやら祝ってくれているようだし、一度のセックスでタマゴが出来るかどうかは置いておくとしても、取り敢えずは一つ壁を越えることができた。

 この先どうなるかは誰にも予測できない。
 例えどんな展開が待っていようとも、俺はヘルムートの旦那として子供の父親として、必ず家庭を守ってみせる。