静かな青の世界へと -6-

「お、お城です……」
「お城か?」
「絵本にあった、お姫様の部屋に似ています!」
「お姫様が怒るぞ……」
 ロココ調の家具に、楽園の天使が描かれた天井、絵画。全て安っぽい偽物だが、このラブホ──またの名をファッションホテルで一番広い豪華な部屋だ。

「何でも好きなモン頼んでいいぞ。ソーセージもあるし」
 大量の土産物をソファの上に置き、取り敢えずベッドに座って一息つく。冷蔵庫にあったミネラルウォーターを飲んで溜息をつけば、緊張からくる熱が少しは体内から吐き出された気がした。

「お風呂もあります。広いです!」
「そうだな、先に風呂入るか……」
 普通の相手なら部屋に入った時点で「そうなること」を理解しているから、色々と進めやすいものの……全くの無知の状態からスタートとなると、驚かせないようにするのに苦労しそうだ。

「シャワーします! 汗いっぱいかきました」
「んじゃ、俺も」
 何を気にするでもなく、その場でぽんぽんと服を脱いで行くヘルムート。俺もシャツを脱いでベルトを外し、ジーンズのファスナーを下ろしたところで既に半勃ちになっている自分に気付いた。

「………」
「どうしました千代晴」
「い、いや。先入っててくれ。すぐ行く」
「分かりました!」
 ここ最近の我慢が全て爆発しようとしているのか、これじゃあまるで自制できない中学生だ。

 深呼吸して何とか下半身を鎮め、下着を脱いでバスルームの扉を開く。シャワーの音と湯気が立つその密室では、ヘルムートが頭上から降り注ぐシャワーを浴びながらうっとりと目を閉じていた。

 ──濡れてクラゲになったりしねえよな?

 白い肌を滑って行く温かな水、金色の毛先から滴る水。しなやかな尻尾は心地好さそうに揺れ、薄い唇は薄く微笑んでいる。
「……あ、千代晴」
 抱きしめたら気持ち良いんだろうなと思う。思わずまた下半身が反応しかけたが、俺はなるべく平静を保ちながらシャンプーのボトルをプッシュした。

「頭洗ってやろうか」
「やった! お願いします!」
 シャワーを止めてヘルムートを座らせ、その柔らかな髪にシャンプー液を馴染ませる。横とうなじからかき上げるようにして指を絡め、一日汗をかいた頭皮を優しく擦ってやる。

「気持ちいいです……寝ちゃいそう」
「ほれ、流すから目瞑ってろ。寝るなよ」
 泡を流してから一応トリートメントもしてやり、同時に湯を溜めておいた浴槽にヘルムートが浸かっている間、俺も自分の頭と体を洗った。

「今日、凄く楽しかったです」
「そうだな。俺も連れてって良かったと思ってるよ。ジンベエザメ凄かったな」
「千代晴。今日、おれとセックスしますか?」
「えっ」
 浴槽縁に両腕を預けて俺を見ているヘルムートは、どこか真剣な顔をしていた。

「何だよ急に」
「ずっと手を繋いでいたから……千代晴の心にもほんの少しだけ、触れることできました。千代晴がおれを求めてくれてるの伝わって、嬉しいです」
「ヘルムート……」
「おれも、千代晴とセックスしたいです」
「………」