となりのナハトくん -9-

「まあ……でも取り敢えずこれで、お前の星は汚染されずに済んだってことなのか?」
「は、はい。お父さんが、おれに結婚申し込んできたカイン王子にちゃんとお断りをしてくれるって言ってました。お父さん、周辺の星の中でも一番偉い王様です。カイン王子もお父さんには逆らえません」

 それならもう、それでいい。さっき見た美しい海が守れるなら、宇宙の平和に比べたら俺の意思なんて別にどうでもいいじゃないか。

「………」
 ──ということは、俺はヘルムートと結婚しても良いと思っているということか?

「……あああ、よく分からねえ……!」
「ち、千代晴っ?」
「にゃはは。しっかり者のパパになれるように頑張ってちょ~!」
 他人事のように笑うナハトに、ヘルムートがはっとして訊ねる。

「ナハト、お父さんのお願い聞いてわざわざおれにビジョン届けてくれましたか?」
「そうよ~。たまたまクーヘンの上飛んでたら息子がいなくなって悲しんでいた王様の音波が届いたから、様子見に行ったの」
 光を失ったクリスタルをソファの上に置いて、ナハトが頭の後ろで手を組んだ。ヘルムートはホッとした表情で胸に両手を当てている。

「ありがとう、ナハト。お父さんと話せて嬉しかったです……」
「お察しの通り、ボク楽しいこと大好きだからさ。千代晴ちんとヘルちゃんが結ばれたらどうなるのか、一番近くで見てたくて。ロミジュリみたいで燃えるじゃん。ボクそういうの大好き!」
 やっぱりヘルムートやその父親のためではなく、自分の楽しみのためか。

 ナハトの気まぐれさを目の当たりにした俺は、あぐらをかいた膝に頬杖をつき皮肉っぽく言ってやった。
「ああそうかよ。俺はヤク中のドM野郎は好きじゃねえけどな」
「薬なんてやってないっての! それに相手によってはSにもなるから、完全なMでもないしさ」

 ソファの上にあぐらをかいていたナハトがその体勢のままふわりと宙に浮く。細い尻尾を嬉しそうに揺らし、見開いた目を爛々と輝かせて。
「ていう訳だから、キミ達の仲間にボクも入ーれて。こう見えてボクケンカ強いし、千代晴ちんがいない時にヘルちゃんの護衛くらいはできるよ」
「……気が進まねえな……」
 むくれながら横のヘルムートに顔を向ける。むしろコイツがいた方が却って危険なのではと思えるほどだ。

 考えていたらヘルムートが俺の膝に手を置き、頷いた。
「ナハト、悪い人じゃないです。ちょっと変わってるけど……お父さんのお願いも聞いてくれたし、おれ達に力貸してくれるっていうのは、純粋な気持ちです」
「こ、この男を純粋と言うか……。お前の父親の依頼を受けたのだって、相応の報酬があったからで──」
「あぁ~ん、流石ヘルちゃん。ボクのことちゃんと分かってくれてるんだね、ほんっとに可愛くていい子! 縛ったアソコにチュッチュしてあげたい!」
 宙を飛んだナハトがヘルムートに抱きつき、ハンバーグソースの付いた口元に思い切り頬擦りする。
「ひいぃ嫌です!」
「お前、SなのかMなのか……タチなのかネコなのかも分かんねえ奴だな」
「ビコーズ・アイアム・フリーダムボーイ!」

 いささか不安ではあるが、まあ考えようによっては宇宙人の味方は多い方が良い……のかもしれない。