となりのナハトくん -8-

 思わず映像を二度見してしまった。
 映像の中で泳いでいるのは何度見てもシロナガスクジラだ。ドキュメンタリー番組でしか見たことのない、地球上最大の巨大生物。

 クラゲだったヘルムートがクジラを「お父さん」と呼ぶとは、一体どういうことなのだろう。

「お父さん……黙って地球に来てしまったこと、ごめんなさい……。クーヘンの星守るために、おれ、どうしてもカイン王子とは結婚できないです。カイン王子と結婚したら星の開発を理由に、お父さんと仲間達が住んでる大事な海、コンクリートがたくさん流されてしまいます」

 俺はこっそりとヘルムートから離れ、ソファの上でビジョンを手に乗せいているナハトに耳打ちした。
「ヘルの親父がクジラってのはどういうことだ? ヘルムートはクラゲなんじゃないのか?」
「地球とは生態系が全く違うし、正直ボクも理解できてないよ。ただあのシロナガスさんはクーヘンの星が生まれた時から、永遠に海で生き続けてるんだって。星の王様で守り神でお父さんなんだよ」
「ふうん……」

 ヘルムートは正座をして、ビジョンの中のクジラに必死に語っている。
「おれ、地球に来て本当に優しくて大好きな男の人と知り合いました。その人の優しさ知ったら、ますますカイン王子とは結婚できないと思いました……」

 水色のシロナガスクジラ──ヘルムートの父親も、画面越しに何かを言っているようだ。クジラやイルカは水中で音を発して会話するという話を昔聞いたことがあるが、ヘルムート達の会話はそんな音にテレパシーを乗せているのだとナハトが言った。

「だからおれ、カイン王子とは結婚しません! 地球で出会った大好きな千代晴と結婚するって決めました!」
 ヘルムートのはっきりとした力強い言葉を最後に、部屋がしんと静まり返る。

「……ん。……ちょっと待て、俺と結婚するってお前、勝手に……」
「──ありがとう、お父さん! おれ、千代晴と結婚してクーヘンの平和守ります!」
 慌ててビジョンの前に移動した俺は、ヘルムートの肩を叩いて「おい、おい」とこちらを向かせようとした。

「俺まだ何も言ってねえだろ。お前と結婚するって話は、まだ決まった訳じゃ……」
「はい、この人がおれの大事なひと。生涯ただ一人の男の人です」
「人の話を聞けっ! 俺はまだ結婚するなんて一言も──」
「はい! 次に星に戻る時、きっと可愛い赤ちゃん一緒です!」
「聞けってばあぁ!」
 ビジョンを手にしたナハトが俺の動揺を見てケラケラと笑っている。

 そうして俺の絶叫も空しく、海の映像が掻き消えて行った。
「……な、何だったんだ……」
「千代晴ごめんなさい。お父さん安心させるために、千代晴と結婚するって言ってしまいました……」
 ヘルムートが本当に申し訳なさそうに眉尻を下げ、謝罪の言葉を口にする。そんなことを言われたら怒る気にもなれなくて、俺は仕方なく腕組みをし溜息をついた。