お仕事をします -4-

「……食べたら駄目ですか?」
 プラスチックのフォークをケーキに刺したまま、ヘルムートが驚いたように目を見開いて俺を見た。

「そ、それは特注品だ。誕生日プレートが乗ってるの見れば分かるだろっ」
「happyBirthday……ケーキ、冷蔵庫では後ろ向いてたから、……今気付きました……」
「とにかくフォークを抜け。……店に持って帰って、衛さんに事情を説明する。手遅れじゃないといいが……」

 通りがかったウェイトレスに注文したメニューをキャンセルし、俺は箱に戻したケーキを抱えてヘルムートと共にファミレスを出た。

「千代晴、ごめんなさい……」
「確認しなかった俺が悪い。これは選んだら駄目なやつだって言ってなかったしな」
「おれ、誰かの誕生日ケーキにフォーク刺してしまいました……」

 今は落ち込むよりも衛さんに相談することが最優先だ。走って店に戻った俺達は、ぎょっとした顔の衛さんの前にケーキを置いて頭を下げた。

「すみませんっ、俺がちゃんと見てなかったから……」
「千代晴悪くないです、おれのせいです!」
「いいから黙ってろ」
「でもっ」
「まあまあ、二人とも頭を上げろ。どうにかならない訳じゃない」

 フォークによる穴が三つ、ぽっかりと空いている。穴が空きクリームも削れてしまった、特注品の誕生日ケーキ。本来イチゴが乗っている部分には砂糖菓子のクマが座っていて、この日の主役のためにニコニコと笑っているのが余計に物悲しかった。

「とにかくお客さんに電話して、何時頃の来店になるか聞いてみるさ。時間に間に合うようだったら作り直せば良い。……間に合わなかったら、正直に言うしかないな」
「すみませんでした……!」
 謝るしかない俺の横で、ヘルムートが唇を噛んでいる。悪いのは俺の方なのによほどショックを受けているみたいだ。

「休憩の途中だったろ。ほれ、飯食ってこい」
 最後にもう一度頭を下げてから、俺達は再び店を出た。どうにも気になって飯を食べる気にならないが、今何か腹に入れておかなければ夜八時まで空腹は続く。俺はまだしもヘルムートにそれが耐えられるかは分からない。

「……おれ、千代晴にも衛さんにも迷惑かけました。……おれ、役立たずです」
 仕方なく近場のラーメン屋に入ろうと歩いていたら、隣でぽつりとヘルムートが呟いた。
「気にするな。俺だって昔、特注品のケーキ落として割ったことあるしさ。注文と違うケーキ詰めてクレーム入ったこともあるし。失敗なんて誰でもやってることなんだよ」
「誰かのお誕生日、おれが台無しにしてしまいます……」
 立ち止まったヘルムートの目は潤んでいた。

「ヘル、……」
「ごめんなさい……」
 大きな地球色の瞳から、大粒の涙が零れる。
「………」