お仕事をします!

 真新しいコックコートは青いボタンが爽やかなアクセントになっていて、ボタンと同じ色の青いスカーフタイとエプロンを巻けば一気に「プレジールの新人店員」に変身する。

「似合うじゃないかヘルムート! 髪が金色だから、制服の青が似合うぞ」
「へへ。ありがとう衛さん。千代晴とお揃いの洋服、嬉しいです。……衛さんとお揃いの、コックさんの帽子も欲しいです」
「わはは、これは俺だけが被ることを許された名誉あるコック帽だから無理さ。これはこの店のリーダーの証だ」
「カッコいい!」
 きらきらと目を輝かせるヘルムートに、クンと鼻を高くさせる衛さん。ヘルムートも衛さんに惚れれば良かったのではないかと思うほど、なぜかこの二人は息ぴったりだった。

「残念ながらこの時期はいつも暇な時間の方が多いが、逆に良かったな。俺はしばらくキッチンに籠るから、ヘルムートは千代晴の指示に従ってくれ」
「はい!」

 十時になって店の前に看板を出し、カウンターの上からウィンドウを清潔な布巾で拭く。ヘルムートはそわそわしながら横に立ち、俺がすること全てを好奇心剥き出しの目で見つめていた。
「やりたいのか? ……掃除くらいならできるか?」
「はい、拭くのやってみます」

 布巾にガラス用洗剤を二度プッシュし、ケーキのウィンドウを楽しそうに磨くヘルムート。視線はガラスの向こうのケーキ達だが、一応はちゃんと「掃除」ということを理解しているらしい。

 プレジールは小さな店だ。アルバイト含めスタッフの数は俺以外にあと四人いるが、こんな時期は店内に一人いれば充分に店を回せてしまう。
 キッチンにいる衛さんは予約用のケーキや店頭にはない特注品を焼く仕事があるため、本当に暇なのは俺だけらしい……のだが。

「おい、ヘルムート。いつまでガラス拭いてるんだ」
 店内のカウンターから身を乗り出して外に声をかけると、しゃがんでガラスを拭いていたヘルムートが俺を見上げて笑った。──昨日もこんな感じで出会ったんだっけ。謎の外国人だと思っていたヘルムートが今日は俺と同じ制服を着ているなんて、妙な気分だった。

「ケーキ、ずっと見てても飽きないです……」
「そこにしゃがんでると、お客さんがケーキ見えないだろ」
「あっ……」
 慌てたヘルムートが立ち上がり、横の出入口から店内に入ってくる。

「へへ、千代晴と並んでお店に立つの嬉しい。おれ達、結婚式してるみたいです」
「はぁ? 結婚式?」
「お揃いで真っ白の綺麗な服着て、甘い匂いがいっぱいで、しあわせです」
 ──乙女チックな奴だなぁ。

 うっとりと目を閉じるヘルムートに苦笑して、俺は作業台の上に組み立てる前の平べったいケーキボックスを広げた。
「何してますか?」
「予め幾つか箱を組み立てておくんだ。注文を受けてからスムーズにケーキを詰められるだろ、一秒でも客を待たせずに済む」
「すごい! 千代晴天才です!」
「ああ、俺は天才だ。暇といえど、一日の客がゼロって訳じゃないからな」

 言ったその時、背後で「すいません」と声がかかった。