宇宙人の王子様 -6-

「さて、俺は仕事に行かなきゃならねえが……お前、一人で留守番できるか?」
「ルスバンできます! でも千代晴ついて行きたいです……」
「いや無理だって。今日はフルだから十時間近く働くんだぞ」
「十時間も離ればなれ辛いです……お手伝いしますから、千代晴の傍いたいです……」

 それはそれで不安だが、よく考えれば十時間もコイツを目の届かない所に置く方がもっと危険かもしれない。自分が宇宙人であることを隠そうともしないし、留守番できると言ったところで好奇心のまま外に出てしまうかもしれない。

「……仕方ねえな。衛さんに詳しい事情話してやるけど、もし衛さんが許してくれなかったら、その時はちゃんと俺の言うこと聞くんだぞ」
「は、はい! おれ、頑張ります!」

 それからなるべく小さいシャツを貸してやって、どうしてもサイズの合わないパンツの方は昨日ヘルムートが穿いていたものを穿かせ、寝ぐせの付いた髪を適当に整えてやり、まだ口に付いていたクリームを拭いてやって──って、お母さんか俺はっ!

「ったく、デカい子供ができた気分だぜ」
 外は相変わらずの猛暑日だ。タオルで汗を拭いても、歩いているうちに後から後から汗が噴き出てくる。

「みーみー……。音、何ですか?」
「セミだ。夏になると鳴く虫」
「せみ。セミの声、好きです」
「マジか? うるさくて堪んねえのに」
 ヘルムートは見るもの全てに興味を持ち、少しでも気になれば訊かずにいられないらしく駅に着くまでひっきりなしに俺に話しかけてきた。

「あれに乗りますか?」
「電車な。お前の星にもあるか?」
「電車ありますけど、地球の電車の方がカッコいいです。でも地面走ってたら、他の人が道通れません。電車も、車も、空の道走るといいです。そしたら地面の空間もっと広がります」
「国に言ってやれ、そういうことは」

 電車の中でも子供のように窓の外を見たがったり、つり革に掴まりたがったり、降りる駅なのに「もう少し乗ってから行く」と言ったり。
 お陰で店に着く頃には、俺は人より二倍近くの汗をかいていた。

「おはようございます……」
 鍵が開いた店の裏口から入り、奥のキッチン──衛さんの「聖域」だ──の扉から顔だけを覗かせる。
「衛さん、ちょっと時間いいですか」
「おう千代晴、今日は早いな! 珍しく開店準備から手伝ってくれるのか……って、その子。昨日の迷子じゃないか」

 そうだ、俺はヘルムートをつれて休憩に入る時、衛さんに「迷子を交番に連れて行く」と言っていたんだった。