宇宙人の王子様 -5-

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 金糸のように柔らかそうな髪は、光の当たり具合によっては白金色にも見える。
 肌は陶器のように艶やかで白く、体付きは華奢とまではいかないが身長の割に小柄な方だ。
 何よりも特徴的なのは、地球色の宝石をはめ込んだような青く大きな瞳。笑えばその瞳が細くなり、代わりに長い睫毛が目立つのだ。

「………」
 自称プラネット・クーヘンからやって来た宇宙人の王子様、ヘルムート。

 ベッドから起き上がった俺は部屋のソファで丸まって寝ている彼を見て、昨日のことは夢ではなかったのだと実感し頭を抱えた。

 こうして寝ている姿だけを見れば、ちょっと個性的な少年、で済む。それならどんなに良かったか。
 だけど俺は昨日ファミレスで見てしまったんだ。
 ヘルムートの髪に隠れていた耳が、昔絵本で見た妖精のように尖っていたこと。
 ベルトだと思っていた黒いヒモがふよふよ揺れる尻尾だったこと。

 そして「結婚話は置いておいて、帰る場所がないならしばらく泊まっても良い」と言った俺に抱きついたヘルムートの足が、重力に逆らい地面から浮いていたこと。 

「マジの宇宙人なのか……?」
 呟いたその時、小さな寝息をたてていたヘルムートが薄く目を開けて俺を見た。
 涎のついた唇が、ゆっくりと笑う形になる。
「……千代晴。おはようございます」
「おはよ……」
「ふあ……地球きてイチバンよく眠れました……」
 ソファから身を起こしてうんと伸びをするヘルムート。貸してやったTシャツがデカすぎたせいか、ワンピースみたいになっている。……しかもノーパン。大きく伸びをすれば、真っ白いケツも小ぶりなソレも丸見えだ。

「へへ。起きてすぐ千代晴会えるの、嬉しいです」
「そりゃどうも……犯されねえうちにパンツ穿いとけ」
「千代晴、『アサダチ』してないですか? 先生から教わりました、大人の男の人は朝起きるとアサダチします」
「……アホみてえなこと教えてんなぁ、そいつ。セクハラなんじゃねえのか」
「アサダチしてたら、おれが千代晴のアレを口に入れて治します!」
 思わず脱力してしまう。……どちらかといえば、その言葉で勃ちそうになってしまった自分自身の情けなさに。

「いや、大丈夫だ。それより腹減ってるだろ、昨日コンビニで買ったパン食えよ」
「パン! 千代晴にイチゴとクリームのパン買ってもらいました、食べたいです!」
 いちいち反応が愛らしいヘルムートだが、日本での──というよりも地球での生活にはまだ全く慣れていない様子だった。

「これどう使いますか?」
 小便がしたいと言うからトイレに連れていけば、便座を開けたり閉めたりしているし。
「く、口の中、気持ち悪いです!」
 歯磨き粉の味が嫌らしく、ぎゅっと目をつぶって歯ブラシも俺にさせているし。
「パン、美味しくないです……」
 袋のままパンを食おうとしているし。

「貸せよほら。この透明の袋をこうして破って食うんだ」
「ありがとう千代晴! ……お、おいひぃです!」
 ……面倒だがまあ、退屈な生活が少しは変わったと思えば。

「そういえばお前、日本語は勉強して覚えたのか?」
「ここ行くって決めてから、先生が教えてくれました。時間なくてちょっとだけチュウトハンパです」
「いや大したもんだろ、それだけ喋れれば」
「へへ。でもおれ頭悪いから、もっとたくさん勉強しても千代晴みたく上手に喋れません……」
「俺も学生時代は馬鹿だったよ。勉強なんか一度もしたことがねえ」

 口元にクリームを付けて笑うヘルムート。ティッシュを渡してやれば、その「何回取っても出てくるふわふわな紙」を偉く気に入ったらしく、箱から何枚も何枚もティッシュを抜き始めたので慌てて止める羽目になった。