宇宙人の王子様 -4-

 結局休憩から戻ってきた衛さんに「迷子を保護したから交番へ連れて行く」と早口で説明し、そのまま休憩に入った俺はヘルムートを連れて近くのファミレスに入ることにした。

「金持ってないんだろ。ついでだから飯くらい奢ってやるよ」
「ソーセージ欲しいです」
 メニューを開くなり、ヘルムートが「ソーセージ盛り合わせ」を指さして目を輝かせる。
「ますますドイツ人っぽいな。どうせならビールも飲むか?」
「……お酒嫌いです」
「冗談だよ。……それで、ヘルムート。お前、食ったらちゃんと家に帰れよ。俺は仕事中だし、お前に付き合ってる暇はないんだ」

 ソーセージ盛り合わせと海鮮丼を注文してから、俺は更に続けた。
「違う星から来たとか、……そういうのに毒される歳でもねえだろ。幾つだ、お前」
「おれ、生まれてもうすぐ二十年くらい経ちます。先生が『地球はクーヘンと同じ時間が流れてる』言ってたから、たぶん地球でも同じくらいと思います」
「……そうか。で、何で地球に来たんだ? 金も持たずに、王子のくせに護衛も付けずに」
 皮肉たっぷりに訊ねると、ヘルムートが少し俯いて悲しそうに眉尻を下げた。

「おれ、別の星のカイン王子という人に結婚申し込まれています。でもカイン王子、とても怖い人です。おれと結婚したらクーヘンの星、好きなように開発すると言っています……だからおれ、先生にお願いしてこっそり地球逃げてきました」
「先生ってのは?」
「おれの先生! 生まれた時からお世話してくれた、友達でお兄さんみたいなのが先生です! 地球での行き先も、先生が決めてくれました!」
 笑ったりしょげたり忙しい奴だ。正直言って可愛いなと思う。……話の内容を無視すれば。

「でもおれ、二十歳くらいになったら結婚する決まりです。繁殖期間短いから、その時に男の人受け入れなければダメです」
「うん? ってことは、男同士で結婚して、男同士で子供産むのか?」
「クーヘンの王子はカラダ変わってます。赤ちゃん産める、大事な尊いカラダです」
「……で、どうして俺に結婚しろと?」

 一番気になる質問をすれば、ヘルムートが困ったように笑ってほっぺたをかいた。
「千代晴、いい人です。カイン王子と大違いです。見た目もカッコいい、大好きなケーキの匂いもします」
「………」
「千代晴、きっと宇宙でイチバンの男の人です。頭悪いおれの話、ちゃんと聞いてくれました」

 か──

「だからおれ、結婚は千代晴としたいです。千代晴の赤ちゃん産めたら、きっと宇宙でイチバン幸せです」

 ──可愛いじゃねえか。

「……困らせたらごめんなさい。地球の男の人、男同士で赤ちゃん作れないって先生言ってました……」
 いや、なにを考えてるんだ俺は。こんな身元不明の謎の男相手に。首を突っ込んだら何に巻き込まれるか分からないんだぞ。

 百歩譲ってコイツの話が全部本当だったとして、俺は宇宙人の王子様と結婚する覚悟があるのか。男同士で作った赤ん坊に責任を持てるのか。
 コイツに結婚を申し込んでいるナンタラ王子だってそれなりの地位があるだろうし、万が一捕まったら拷問とか処刑とか……

「お待たせしました」
「わっ! ソーセージ美味しそうです! 千代晴も食べて下さい!」
 不器用な手つきでフォークを取り、チョリソーに刺してかぶりつくヘルムート。
「ん、んん……辛いです! でもちょっと美味しいです」
「ちょっとかよ?」
 ついつい笑ってしまった俺を見て、ヘルムートも笑った。
 それは俺がこれまで出会ってきたどんな奴よりも純粋で、子供っぽい笑顔だった。