宇宙人の王子様 -3-

「仕方ねえな、もう。俺が奢ってやるから持ってけよ」
 少年の胸にケーキの入った箱を押し付けると、一瞬きょとんとした彼がパッと顔を輝かせて笑った。
「お兄さん、ありがとう!」
「………」

 今年で二十五歳。相手は全て男だが、それなりに経験はしてきた。フッたりフラれたり、片思いが実らなかったり、遊びの一夜を過ごしたこともある。
 過去に色々あったものの、今はどこにでもいる平凡な二十五歳──だけど俺は、俺は。

「丸いの、ケーキ……ふふ」

 ──俺は、こういう年下の童顔に滅法弱いんだ。

「……おい」
「はいっ」
「お前、名前は? ……あー、ネーム。ユアネーム?」
 仕事中にナンパなんて考えられないが、どうせ暇だ。少しくらい客と喋ったって構わないだろう。

「ネーム。……あ、おれ、ヘルムートといいます。ヘルムート・シュトロイゼル・クーヘンといいます」
「やっぱ日本人じゃなかったか。俺は佐島千代晴。それで、どこから来たんだ? 名前の響きから察すると……」
「おれ、プラネット・クーヘンから来ました。クーヘンの第三王子、ヘルムートといいます」
「………」

 やっぱり今年の夏は暑すぎたからか。
 妙な笑いさえ込み上げてきて、俺は額の汗を拭ってから「ありがとうございました」と彼に頭を下げた。

「それじゃ、気を付けて帰れよ……」
「ま、待って! お兄さ……千代晴、待って下さい」
 コックコートの端を掴まれて渋々振り返ると、謎の少年ヘルムートが上目に俺を見上げて言った。

「おれ、千代晴好きです。おれと結婚してください!」
「な、な……何言ってんだお前っ?」
「えっと、千代晴、おれと結婚して欲しいです。おれ王子だけど自分で好きになった人、大事にします!」
「いやちょっとお前、……王子とか結婚とか、プラネット何たらとかって……暑さで頭イカレてんのかっ?」
「パラノイア違います、おれ本当です! 地球で優しくしてくれた、千代晴が初めてです、……結婚してくださいっ!」
「あああ、こっちの頭がおかしくなる……!」
「千代晴好きです! 好き!」
「だっ、抱きつくんじゃねえっ!」

 ──何か面白いことねえかなぁ。

 ついさっき呟いた自分自身の言葉が脳内に響き渡り、俺はその場で絶叫した。