HAPPY DAY -3-

 見た目も味も自信ないけど、気持ちだけは籠ってるつもり。
 甘党の俺が「甘過ぎないように作る」のはとても大変だったけど、……食べられなくはない、つもり。

 二月十四日、午後八時。俺は小さな箱を胸に抱いて、寮の305号室の前に立っていた。
「………」
 別にいつもと同じだ。この呼び鈴を押して部屋に上がって、他愛のない話をして泊まるだけ。いつものことなのに、どうしてこんなに緊張してしまうんだろう。
 うだうだと考え込んで立ち尽くしていても、どの道呼び鈴を押すことには変わらない。だったら一秒でも長く一緒にいられる時間が増えた方がいいじゃないか。
 俺は意を決して呼び鈴に指を伸ばした。
「………」
 部屋の中でドスドスと歩く音がして、潤歩が玄関に向かっているのが分かる。今更慌てても仕方ないのに、俺はドアが開くその瞬間まで前髪を手櫛で直していた。

「おう」
「お疲れさまです……」
 いつもの挨拶。いつもの潤歩。お互いほんの少しだけ表情が硬いのは、「今日」という日を意識しているせいだ。
「上がれよ」
「お、お邪魔します」
 潤歩の匂いがする部屋は、間取りは同じでも獅琉や大雅の部屋とは違って男らしい。寝具も家具もモノトーンで統一されていて、適度に散らかっていて、物凄く落ち着くのだけど……今日に限っては、ローテーブルの前に並んで座ったまま固まってしまう。

「………」
「……寒くねえか」
「へっ? あ、大丈夫です……」
「あっそ」
「………」
 俺の馬鹿。せっかくの会話の始まりを一言で終わらせてしまうなんて。
「えっと、……潤歩さん。今日はどんな仕事を?」
「別に、写真撮影とか」
「そっか。……お疲れ様です」
「………」
 何だよ、この中学生の初恋みたいな会話。恋人相手に──いや、潤歩相手に今更何を遠慮するっていうんだ。

「あぁー!」
「えっ……?」
 突然、潤歩が声をあげて背後のベッドに寄りかかった。
「ど、どうしたんですか?」
「どうもしねえっつうの。てめぇ何でギクシャクしてんだ。俺に何か持って来たんだろ、早く寄越せ」
「あ、あぁ……その言い方ムカつきます……けど、プレゼント持ってきました!」
 ずっと手に持っていた箱を押し付けるように渡して、俺は頬を膨らませた。
「言っときますけど、大した物じゃないですからね」
「分かってるわ」
 お互い真っ赤になりながら不毛な言い合いをして、そっぽを向く。潤歩が箱のリボンを解いて中身を取り出す間、俺の心臓はずっと爆音で高鳴っていた。