HAPPY COALESCE!

 もしもセックスや裸でいることが「恥ずかしい」という概念がない世界だったら、俺達の仕事は成立しなかったかもしれない。
 そもそも、この「恥ずかしい」って気持ちはどこから来るんだろう? 人間は多分始めは裸だったし、セックスも子孫を残すための大事な行為だ。

 キモになっているのは、大抵の人間に備わっている「性欲」。この性欲が人類の繁栄に繋がり、時には犯罪にもなる。このややこしい性欲というものは人間にしか与えられていないものの一つで、しかもかなり重要な役割を果たしている。AVや風俗の仕事はもちろん、有栖がやっているような開発の仕事とかも。絵や音楽や物語などの芸術方面でも。

 難しいことを考えると頭が痛くなってしまうけど、俺は多分これからも考えずにいられないだろう。
「だって、セックスが『恥ずかしいこと』じゃなくなったら、世の中大変なことになっちゃうもんなぁ……」

「ちらっと噂で聞いたんだけど、ついこないだデビューした新人さんが、凄いインテリ系なんだって。教員免許も博士号も持ってて、英語やフランス語もペラペラなんだとか」
「そりゃ理由はそれぞれだけど、そんな天才が何でわざわざAVに来るのかねぇ」
 獅琉と潤歩が顔を見合わせ、首を傾げる。
「俺も又聞きだけど、どうやら人のためらしいぞ」
 竜介が言って、大雅が「借金とか?」と質問する。
 俺はテーブルに頬杖をつき、少しだけ笑った。
「自分がAVやることで、マイノリティに悩んでる人達に自分の『性』を受け入れてもらいたい。って考えてるんですって」
「亜利馬、その人と話したの?」
「ちょっとだけ。しかも俺達ブレイズのVを見て感化された、って言ってましたよ」
「へえ。そんじゃあ俺達も、ちっとは人の役に立ってんだな」
 いつもの会議室はそんな井戸端会議の場であり、夕飯を決める場所であり、仕事に呼ばれるのを待つ控室でもある。

「全員揃ってるか」
 その会議室に山野さんが入ってきて、俺達は正面へ向き直った。
「お疲れ様です! 次の企画、決まりましたか?」
「ああ。次は監獄モノだ。囚人は潤歩と大雅。看守は獅琉と竜介と亜利馬。潤歩に犯されるのが獅琉、大雅とデキている設定が竜介。亜利馬は例のごとく複数プレイだ」
「ちょっ、……『例のごとく』で片付けないで下さいよっ」
 山野さんが眼鏡のブリッジを指で持ち上げ、笑った。
「二人の囚人にマワされるパターンと、新人看守ということで二人から指導されるパターンだ」
「……了解です。安定の『例のごとく』でした」
 やられ役という情けないポジションにも、今となっては少しだけ感謝だ。そのお陰で、決してイケメンとは言えない俺にも「需要」があるのだと知ることができたのだから。

「そんじゃ、帰ったら読み合わせだね。囚人組は、今夜の夕飯はご飯と焼き魚だけでいいかな?」
「おいふざけんじゃねえぞっ、本物の監獄だってもっとマシな飯が出るっつうの!」
「……潤歩、経験者」
「んな訳ねえだろっ!」
 会議室に笑い声が響く。

 五年後、十年後──そこにいる場所が変わっても、この笑い声だけは変わらずに響き続けるんだ。

「亜利馬です。職業はAVモデル、四人の旦那さんと一緒に暮らしています」
 そんな風に胸を張って自己紹介ができる日も、きっと近い。

 まだまだ!COALESCE!・終