亜利馬、ぶるぶる -6-

 四つん這いの悪魔が追いかけてくる。狂気の目を爛々とぎらつかせ、蛇のように舌をチラチラさせて、ターゲットを尻から食い尽くそうとしている悪魔が。
「……あ、ふっ!」
 しかもこんな時に限ってローターのバイブが強くなり、頑張ったけれどとうとうその場で動けなくなってしまう。
「亜利馬、捕まえたァ!」
「………」
 足首をがっしりと掴まれた瞬間、俺はもう覚悟を決めた。
 うつ伏せたまま体を回転させ、真っ赤になった顔を隠そうともせずに目を閉じる。

「お、おい。どうしたんだ亜利馬。さっき頭ぶつけたの、痛かったのか?」
「……潤歩さん。俺の負けです……好きにして下さい」
「何言ってんだてめぇ、たかが鬼ごっこで──」
 潤歩の視線が俺の「そこ」に辿り着いた。パンツ越しに盛り上がったソレを見て、流石の潤歩も若干引いている。
「……お前、何で勃起してんだ」
「………」

 トンネルの中という閉鎖的な空間。互いの距離が近くて、ドームの壁に外の音が遮られているせいかお互いの息使いさえクリアに聞こえる。
「亜利馬、お前……」
「い、言わないで下さい。何も言わないで、……」
「………」
 馬鹿にされたり笑われたくないという思いからつい潤歩の言葉を遮ってしまったが、……どうやら潤歩には別の誤解を与えてしまったらしい。珍しく赤面顔で動揺している潤歩が、同じく恥ずかしさに真っ赤になった俺を見てゴクリと喉を鳴らしている。

「う、潤歩さん……?」
「これは据え膳か……それともお前の罠か? どっちにしても取り敢えず……」
「へ? 何言って……」
「取り敢えずパンツ脱げや!」
「だっ! 駄目! 絶対駄目ですっ……!」
 俺の下半身に覆い被さってきた潤歩が、超スピードで俺のズボンと下着を下ろして行く。まずい。ローターがバレたらとか、誰かに見られたらとか、もはやそんなのどうでもいい。

「こ、ここじゃ駄目です! 道徳的にマズ過ぎます! 子供が使う遊具なんです! 人として駄目です!」
「てめぇ、好きにしろって言ったじゃねえかよ」
「あ、あれはそういう意味じゃっ、──ああぁんっ!」
 引っ張り出された俺のペニスが、潤歩の一口で根元まで呑み込まれて行く。脚を閉じて仰向けになっているからか尻のソレを気付かれてはいないらしい。

「勃起させてるてめぇが悪い」
「あっ、あぁ……公然わいせつ罪ですっ……!」
 じゅぽじゅぽとエッチな音をたてて吸われる俺のペニス。長い時間ずっと我慢していたからか、感じる刺激はいつもより三割増しだ。駄目なのに抗えなくて、駄目なのに思い切り乱れたくて、でもそういう訳にもいかなくて、もう頭の中がとろとろ地獄状態だ。

「イッ、……あ、潤歩さん、どうしよう、……イッちゃいます……!」
「早ぇな相変わらず。どうしようも何も、飲むしかねえだろ。口ん中で出せよ」
「だ、め……精液飲んだら、怒られ、……」
 撮影時は疑似精液としてヨーグルトを代用するほど、この業界では基本的に「精飲行為」を禁止している。それによって喉に何等かのウイルスを貰ってしまう可能性がゼロではないからだ。
 だけど……

「うるっせえ、いいから早くイけ」
「あっ──んン!」
 潤歩に咥えられたまま果てたその瞬間、俺の網膜にたくさんの星が散った。
 最低なシチュエーションだけど、我慢してた分めちゃくちゃ気持ち良かった……。
「オラ、さっさとパンツ穿け。……てめぇ休憩中から様子おかしかったけど、ずっと勃起我慢してたんだろ。少しは楽になったか」
「お、お陰様で……」
「ったく。ムッツリ小僧はこれだから困るぜ」

 ローターは気付かれなかったし、一般の方の目に触れることもなかったし、珍しく潤歩なりの優しさに触れることもできたし、文句はないんだけれど……
「デビューしてから人のザーメン飲んだの、てめぇが初めてだぞ。これはデカい貸しだからな」
「す、すいませんでした……」
 文句はないけど、とてつもなく複雑な気持ちだった。