亜利馬、正真正銘己との闘い -8-

「亜利馬、お疲れ様! とっても良かったよ!」
 シャワーを浴び終わってバスローブを着たままぼんやりしていると、後ろから有栖に背中を叩かれた。
「初タチどうだった? 何か大人になった?」
「有栖、喘ぎの声がデカ過ぎだよ」
「亜利馬もね! そんじゃ、また後で俺んちでね。獅琉様によろしく!」
 こんな場所でも白衣を着ている有栖が、裾を翻らせながらスタッフさんの方へ走って行った。
 初タチ。確かに気持ち良かったし、良い経験にもなった。人間相手じゃないと童貞卒業とみなされないなら、俺はまだ童貞だけど……とにかくこの企画をやって良かったと思った。
「……でも、物足りない……」
 今もまだ疼いているお尻をバスローブの上から軽く撫で、俺は乾いた唇を舌で舐めた。
 ――帰ったらオナニーしまくるしかない。

「結局さあ、性癖なんてひとそれぞれなんだよね。慣れてるせいもあるけど、亜利馬はやっぱウケの方が体に合ってるんだよ」
「そうかなぁ」
 撮影後に有栖のアパートまで送ってもらった俺は、この前と同じように畳の上で座布団に座りながらお茶を啜った。
「亜利馬が腰振りながら喘いでるのも可愛かったけど、やっぱり突かれてる時の方が良い顔してるし」
「有栖、別室で見てただけなのによくそこまで分かるね」
「そりゃ、セックスの観察も俺の仕事の一つだしさ」
 有栖が自分用の湯飲みにイチゴミルクを注ぎながら笑う。
「初心者の亜利馬を無事にイかせられたって意味では、今回の開発も成功だったけど。俺は亜利馬に気持ち良くなってもらいたいからなぁ……」
「そしたら、タチの人形でも作ればいいんじゃない?」
 何気なく口を出た俺の呟きに、有栖が目を丸くさせた。

「それだ!」
 そして有栖が湯飲みをちゃぶ台に置き、ノートパソコンを開いて猛スピードでキーを叩き始めた。
「首振りの機能を付ければ疑似フェラもできるし、別のスイッチで舌が動くようにすればいいんだ。それから熱で勃起させるのは同じとして、バイブと同じ要領でペニスをピストンさせればいけるかも……」
 その情熱が世界平和に役立つといいのに。思いながらお茶を飲んでいると、有栖が「何か盛り込んで欲しい機能ある?」と俺には目を向けずに訊いてきた。

「……やっぱりウケはあれこれされたい側だから、手とか指が動くってのもいいんじゃない? 手コキモードも扱くのと揉むのとパターンを変えたり、穴に指を入れた時に回転したり震えたりするとか」
「んんんっ、亜利馬天才! AV引退したらウチで採用するからそのつもりで!」
「あとボイス搭載はなるべくして欲しいよ。今日だって有栖の声がなかったら萎えてたかもしれないし。ボイスと、欲を言えば表情が変わるのも欲しいかも。視線も動いたりね」
「ドSモデルと、優しいお兄さんモデルを分けて作るのも良いか。そしたらペニスがピストンするだけじゃ駄目だ。腰からちゃんと動くようにしないと!」
「それは絶対! 腰が尻に当たる感覚は欲しい!」
「タイマー機能で疑似精液を射精するっていうのは?」
「欲しい欲しい! 絶対付けて!」
「よっしゃああぁやる気満々!」
「完成したら俺に一体ちょうだいよ!」
「任せろ!」
「あと、何か一本バイブ借りていい?」
「その辺にあるの持ってっていいよ。俺ちょっと研究室行って仕事モード入るから、帰りたくなったら帰って。眠いなら泊まってもいいし」
「帰る、帰る」

 仕事脳に切り替わった有栖は、俺がバイブを拝借した理由なんてどうでもいいみたいだ。こそこそと棚を探って適当な物を選び、バッグに入れて立ち上がる。
「それじゃ有栖、またね」
「またね亜利馬! 獅琉様によろしく!」
 無事にバイブも手に入ったし、後は部屋で一発抜いてぐっすり寝るだけだ。

 良い意味でもそうでない意味でも、色々なことを学んだ今回の企画。やっぱり俺はウケのまま童貞卒業できなくてもいいやと思えただけ、俺にも充分メリットはあったみたいだ。
「帰ったらすぐ使おうっと。俺もやる気満々!」
 バイブを入れたバッグを背負って、未だ続く尻の疼きを感じながら夕暮れの道を歩き出す。
 俺のタチデビューのお祝いでブレイズの皆が部屋に集まりつつあるなんて、この時の俺は全く気付いていないのだった。