亜利馬、正真正銘己との闘い -2-

「そういうものだよッ!」
 その日の夕方。至近距離で有栖に叫ばれ、俺は危うく持っていた湯飲みを落としそうになってしまった。
「い、いきなり怒鳴らなくたって……!」
「亜利馬は分かってないよっ。本当は童貞のままでいて欲しいけど、ウケ専の子がタチに回ってる時のエッチな可愛さを見たい気持ちってのを、全然分かってない!」
「そんな熱く語るようなことっ?」
「もう!」
 有栖がイラついたようにあぐらをかき、湯飲みに淹れたミルクカフェオレを一気に飲み干す。

「……有栖のアパート初めて来たけど、何か想像してたのよりずっと質素だね。どうしてもあの研究所と比べちゃうけど」
 和風というか、古き良き昭和の香りというか……畳敷きに座布団に湯飲みに、障子にちゃぶ台だし。実家を思い出して落ち着くけれど、お洒落大好きな有栖にしては内装に全くこだわりを感じない。
「部屋なんてたまに寝に帰るだけなんだから、屋根があればいいんだよ」
「そういう感じなんだ。でもやっぱ俺達は、こういう部屋の方が落ち着くよね」
 脚を崩して天井を見上げれば、子供の頃に有栖の家の和室で遊んでいたのを思い出す。大好きなアニメキャラになりたかった俺は、有栖が作ってくれたマントとゴーグルをつけて得意げに走り回っていたっけ。

「……それで、有栖が作った俺の人形ってどういうやつなのさ?」
「これこれ。名付けてアリマ一号!」
 そう言って有栖がタブレットを操作し、俺に画面を向けた。
「えっ、これって人形なの?」
「そうだぞ。正直言って我がバッドアリス商品企画開発部の最高傑作だね!」
 タブレットに映っていたのは、何と言うか……俺。俺そのものだった。行儀よく椅子に座ってこちらを見ている、ただのパンツ一丁の俺だ。
「CGでしょ」
「違うってば。動画もあるから見てよ」
 有栖が画面を操作し、短い動画を再生させる。

「……あ、白太さんだ」
 有栖の会社で会った銀髪の美青年・白太さんが、人形だという「それ」を持ち上げる。
 座ったままの恰好で持ち上げられた俺が、今度はソファの上に寝かされ、白太さんの手によって両脚をゆっくりと開かされた。俺は表情を変えず、天井を見つめたままだ。
「すごく自然に手足が動くでしょ。ソフビでもないし球体関節でもないんだよ。素材はシリコンね。肌の色と表情、髪の毛、全部全部が最高の造り」
「た、確かに……すごいね」
 思わず、俺がそこにいるのではと思ってしまう。俺がソファに寝かされて白太さんに色々動かされているみたいだ。

「ちなみに、アレも付いてるからね。しかもちゃんと熱を加えると硬くなる仕様! 扱けば勃つんだよ、すごいでしょ!」
「そ、そんな機能いらなくない?」
「いるに決まってるじゃん! リアルな亜利馬を再現してるんだから」
「じゃあ、身長とか体重も俺と同じなの?」
「ううん。今回は俺から型を取ったんだよ、ほぼ亜利馬と同じだからね。商品にするものはちゃんと亜利馬から型取りする予定だから大丈夫」
 全然大丈夫な意味が分からない。それでも有栖の目はきらきらと輝いていて、何も言えなかった。

 こういうところに情熱を注ぐ有栖は、一般的に見れば「変わっている」のだろう。だけどその情熱こそが俺達AV業界の未来をも担っていると思えば……まあ、いいか。