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 それから俺達は近場のゲームセンターへ出向き、まるで中学生みたいにはしゃぎ回って遊んだ。
 俺に対戦で負けて拗ねる 混一。大量のメダルをゲットして叫ぶ混一。音ゲーでミス連発の俺を笑う混一。クレーンで取ってあげたネコのマスコットに大喜びする混一。
 その表情や仕草の全てが、一瞬一瞬が愛おしくて堪らない。
 許されるならば、ずっと今夜が続いてほしい。明日なんて要らない。混一がいない時間なんて、俺には何の価値も無い――。

「浩介、アイス一口ちょうだい」
 休憩スペースのベンチに並んで座るなり、混一が身を乗り出して言った。
「いいけど、お前チョコミント嫌いなんだろ。歯磨き粉の味するとか、気持ち悪いこと言って」
「だって浩介が美味そうに食べてると、俺も食べてみたくなるじゃん」
 俺が差し出したアイスに唇を被せた混一だが、案の定、目を細めて不味そうにしている。
「う、やっぱり歯磨き粉だ……」
「あはは、無理するな」
 口直しに紙コップのコーラを飲む混一を見て、俺は腹の底から溜息をついた。

「ああ、今はこうしてても月曜からまた仕事だ。行きたくねえなぁ……」
「休んじゃえ。それで俺に会いに来てよ」
「そ、そういうこと言うなって。本気で休みたくなるだろ」
 肩を落とす俺を見て目を細めながら、混一が頬を赤くさせて言った。

「……俺、こんなふうに誰かと遊ぶの久し振り」
「なんだよ。前に休みの時、カラオケ行くとか言ってたじゃん」
「そうだっけ? でもどうせ行っても一人カラオケだよ。俺の暇潰しの定番だもん」
「そ、そうなのか……。まぁでも俺も遊ぶの久し振りだよ。むしろ、こっち出てきて初めてだ」
「浩介、会社の友達と遊んだりしないの?」
「しないしない。俺、周りから避けられてるもん。見た目が怖いんだってさ」
「確かに浩介って見るからに肉食系だから、普通の人は近寄り難いかもね。話してみると三枚目キャラなのに」
「失礼な奴だな」
「冗談、冗談。でもさ、浩介はそんな感じだから、直接人と接するような仕事の方が向いてると思うんだよね」
「まぁ確かに俺自身、そうは思ってるんだよなぁ。学生の時も、接客のバイトしかしたことねえし……」

 ふいに、混一が俯いて言った。
「でも今の職場で友達がいないんじゃあ、寂しいね」
「別に寂しくなんかねえよ。俺は会社の連中とは合わないんだと思う。無理して良い人間関係作ることほど、苦痛なことって無いだろ?」
「……俺もそう思う。無理して周りに合わせるより、独りぼっちでいた方が気が楽」
 何となく本心からそう言ってる気がして、俺は混一に訊ねた。
「混一は、幻龍楼で友達いないのか?」
「幻龍楼では友達って言うより、仕事仲間だよ。 和了さんも副露も良くしてくれてるし、たまに他の色子と飲みに行くけど、それでもやっぱり、友達って感じにはならないんだよね。店辞めたらあっさり切れる関係だと思う。今までだって、仲良かった奴が何人か辞めていったけど……もう連絡も取ってないな」
 困ったように笑って、混一がキャラメルチョコのアイスを舐めた。

「お客さんだっていつ俺に飽きるか分かんないから、常連が出来てもずっと付き合えるって訳じゃないよね。お客さんも仕事仲間も友達も皆、その時、その時だけの関係なんだよ」
「………」
「でも俺はそれでいいと思ってるんだ。……俺の世界は俺だけの物であって、そこから離れて行く人を無理に引きとめる必要なんかない。だって相手にも相手の世界があるんだもんね」
 それを聞いて何だか切なくなったけれど、混一の笑顔からは全く寂寥感は伺えない。だから俺も笑って言った。

「混一は本当に自由なんだなぁ、羨ましいよ」
「いつか自由じゃなくなる時がくるかもしれないでしょ。今から自由の掴み方を練習しておかないとね」
「自由の掴み方があるのか。俺にも教えてほしいくらいだ」
「簡単だよ。浩介、飴いる?」
 反射的に頷くと、混一がポケットから三個の飴玉を取り出して俺に見せた。幻龍楼のフロントに置いてあるやつだ。ソーダ味と、バナナ味が二個。銀色の包み紙が手のひらでキラキラと輝いている。
「好きなの選んでよ。ちなみに俺が好きなのはソーダ」
「ん。じゃあ、バナナでいいよ」
「なんで?」
「なんでって、だってソーダの飴は一つしか無いんだろ。混一がそっち欲しいなら、普通に考えて――」
「駄目だよ、浩介」
 俺の言葉を遮って、混一が小さく溜息をついた。
「他人の意見や数なんて気にしないで好きな方を取らなきゃ。俺だったらこの場合バナナが十個あっても、残り一個のソーダを選ぶよ」
「それが自由の掴み方か?」
 思わず俺が笑うと、混一もにっこりと笑った。手のひらにあった飴を俺に預け、更にポケットから飴を取り出す。

「目先のことで悩んでたら、未来が見えなくなるよ。可能性は無限なのに」
「あ……」
 新たに開かれた手のひらには、ソーダの飴がたくさん乗っていた。
「………」
「その三つは全部あげる」
 俺は貰った飴を握りしめ、同時に唇を噛み締めた。

「……さてと、それじゃそろそろ行こうか。時間も時間だしね」
 立ち上がった混一がアイスのカップと紙コップをごみ箱に放る。
 喉まで出かかった言葉を飲み込み、俺もその後に続いた。
「………」

 俺は混一のことが好きだ。
 楼閣の美青年に憧れる感覚じゃない。彼の若さや美しさに溺れている訳でもない。金とセックスで始まった俺達だけど、俺は今、混一という人間そのものに心から、どうしようもないほど惹かれている。
 俺に無いものを持つ彼。それを羨む気持ちは、今はっきりと、守りたい気持ちに変わっていた。

「終電、大丈夫?」
「ああ、まだぎりぎり……」
「楽しかったよ、浩介」
「俺も……楽しかった」
「……うん」
「それじゃ……」
 駅に向かおうとした俺のコートの端を、混一がくいと引っ張った。
「な、何……?」
「……ふふ」
 いつものあの笑い方。
「浩介のかっこつけたがり」
「え……」
「あんな中学生みたいなデートだけでいいの?」
「………」
 試されていたのか、俺は。
 ――小悪魔め。

 俺は伸ばした腕で混一を強く抱きしめた。
「……良くない」
「どうしようか? 浩介がちゃんと言ってよ」
 からかうように囁く混一に、俺は素直な気持ちを口にする。
「お前とセックスしたい」
「……俺も」
 もう後戻りなんかしない。例え破滅するとしても、俺は自ら進んで地獄の底まで堕ちてやる。